子どもと自然

新国 勇
河北新報 計数管 2001年9月13日(木曜日)掲載
 [おとうさん、これなあに」
 中学三年になる長女がペットボトルに入れた小さなヘビを部屋から持ってきた。下校の途中、道ばたでつかまえ、手にまきつけてきたらしい。赤っぽいヘビで、シマヘビの子どもだった。釣りが好きで、休みになれば川にでかけるアウトドア派だ。
 小学校六年の二女も大の生き物好き。カエル、イモリ、サンショウウオからカブトムシ、クワガタムシまで飼っている。軒先は飼育箱だらけだ。あるときバケツいっぱいにモリアオガエルが入っていた。用水路の取水口で水が渦をまいていて、モリアオガエルがぐるぐる回っていたのを網ですくって助けてきたという。産卵期中でオスがメスにおんぶしたままバケツに入っている姿がこっけいだった。
 夏ともなれば、「虫捕りに連れてって」と毎晩うるさい。昨年、休耕田で小指のつめほどの貝を見つけてきたことがあった。調べてみると、淡水性の二枚貝で、マシジミという貝の赤ちゃんだった。こんな貝がいることを、親も初めて知った。
 三女は姉たちとくらべると臆病で、生き物が得意とはいえないが、いったん野山にでかければ、負けずにカエルや虫を追いかけている。
 小さいころから、自然の好きな親を見てきたからだろう。カエルも虫も草もなんでもおもしろがる。車に乗っていれば「あっ、アオサギだ」「オシドリがいる」山道を歩けば「これ、ヤマアカガエル、それともタゴガエル」という具合。そして道のない山に入るのも苦にしない。つるのからまる雑木林や草ヤブだってへっちゃらだ。
 人口五千五百人のわが町に塾はない。習い事の習字やピアノがある程度。塾をはしごする都会の生活なんて別世界のこと。きっと、わが子たちの学力は、都会の子どもにくらべたら及ばないだろう。しかし、強がりをいうわけではないが、塾やテストで創意工夫することや自分で判断する能力が身につくだろうか。自然体験を重ねて、その奥深さを感じていくことが、創造性や自主性をはぐくむのだと思う。
 いまの子どもは「生きる力」が希薄になったといわれるが、それは過保護と自然にふれることがなくなってきたからだ。子どもたちには学歴や世間体にとらわれず、自然の中に身をおき、好奇心をもつことや自分で工夫する知恵を学んでほしいと願っている。


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