カモシカ騒動

新国 勇
河北新報 計数管 2001年7月12日(木曜日)掲載
 「カモシカがいる」と通報があるたび、「また出たか」とがっかりする。死んだカモシカの埋葬に出動しなければならないからだ。カモシカ騒動といえば大げさかもしれないが、処理を担当する立場からいえば、日常業務を突然狂わせる事件である。幻の獣といわれ絶滅寸前の憂き目にあったカモシカも、ここ福島県只見町ではけっして珍しい動物ではない。
 カモシカは、国指定の特別天然記念物であり、文化財保護法によって守られている。したがってその取り扱いは地元の教育委員会があたることになる。死んだカモシカは、只見川をせき止めたダム湖や林道で発見されるが、ときには国道や鉄道線路、人家付近と神出鬼没だ。毎年、五、六頭を埋葬している。まるで遺体処理隊である。それも新しいものならいいが、腐っていたり、病気だったりといろいろなカモシカがいる。
 川や湖で見つかるのは、なだれに巻き込まれて流されてきたものだ。ダムの取水口にひっかかったカモシカを引き上げると、そばにもう一頭浮かんでいたなんてこともある。水路にはまって溺死するものもいる。名だたる豪雪地のこの町では、水路の上をすっぽりと雪がおおう。カモシカは落とし穴に落ちるように水路にはまり、上がれずに命を落とす。小さな牛ほどもあるカモシカが水路にひっかかり、数人がかりで引き上げたこともたびたびある。
 冬のJR只見線にもいる。線路の両側が雪の壁になっていて、落ちるとはい上がれずに汽車にはねられてしまうのだ。病死したカモシカも多い。お岩様のような顔をして、近寄るのも気持ち悪い。パラポックス病というウイルス性の伝染病で、近ごろ増えている。
 これらのカモシカはすべて現場検証してから、計測し、写真に撮り、角から年齢を読み取る。頭骨の散逸防止のために頭に袋をかぶせ、穴を掘って埋める。その際、野生動物に食べられないように石油をまいて土をかける。そして滅失届を作って、文化庁に届ける。
 特別天然記念物ならではの手厚い扱いだが、絶滅の危機が回避されたのであるなら、保護や処理についてはもっと簡略化するよう再検討する時期にきているのではないかと思う。


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