町史でムラおこし

新国 勇
河北新報 計数管 2001年6月21日(木曜日)掲載
 福島県只見町は、尾瀬沼を水源とする只見川の最上流域にある。この町で、只見町史という自治体史を作る仕事を始めて十二年が過ぎた。これまでに町史九冊と文化財報告書二冊を刊行した。
 内輪話だが、町史の仕事をしていると、職場の同僚や知人に「いつまでそんなことをやっている。仕方ねえな」とよく言われる。転勤のない役場では、いろいろな職場を経験してキャリアを積む。移動がないというのは、将来性がないということだ。初めのうちはそうも思ったが、今ではこの仕事をやれてありがたいと思っている。
 土地の歴史、民俗、自然のすべてを網羅する自治体史は町の百科事典のようなものだ。調査では、町内のすみずみまで歩かせてもらった。山頂から河原、農家の軒先から神社仏閣、墓地まで歩かないところはない。私ほど歩いた人は恐らくいないと思う。町の歴史や自然の全体像を把握できたことは、生涯にわたる財産だ。
 本を作る過程での副産物もある。「図説会津只見の民具」という本では念願の民具整理が完了し、民具が国の有形民俗文化財に指定されるまでになった。「会津只見のむかし話」の刊行では、話者を掘り起こして、昔話の会を発足させることができた。三十人を数える団体となり、保育所や小学校で昔話を語っている。
 「会津只見の自然」では、巨木マップを作った。なかには日本一のクリの木もある。町の文化財も新たに五件指定した。そのうちの一件「応仁元年の鰐口」は福島県の有形文化財にもなっている。町史編さん講座という講演会を年二回開催し、町の広報誌には町史とっておきの話というコラムを連載中だ。大切なのは本の刊行だけでなく、生の情報や知識を住民に伝えることだと思っている。住民の役に立ってこそ自治体史の価値がある。
 町史でムラおこしといえば、天狗になりすぎだが、町の文化振興や観光資源の掘り起こしにはいささかなりとも貢献できたと思う。
 町史を編さんすることで町民や町外の人とのつながりもできた。何より視野が広がった。今は、これまで知り得たことを地域や職場にいかに還元できるかを考えている。


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