町の文化財目録

新国 勇
河北新報 計数管 2001年5月31日(木曜日)掲載
 「只見町史」という本を作っている。面積は東京都の1.2倍もあるが、人口は五千五百人しかいない福島県只見町の自治体史だ。市町村の歴史、民俗、自然を解説した自治体史の編さんは、高度経済成長期とバブル全盛気の二回ほどブームがあった。だから、たいていの市町村にはあることだろう。
 わが町では、昭和四十五年に一冊発刊して以来、今回が二度目の編さんになる。平成元年から始めて、全十一冊のうち九冊を作った。文化財報告書も二冊刊行した本巻は一千ページを超える大冊だ。[そんなもの作ってだれが読む]とよく言われる。確かに中は文字だらけ。しかも厚くて重い。重厚長大な本は時代遅れとも思う。大金をかけて作っても利用されななければ意味はない。近ごろは読者層を広げようと、思いっきりビジュアルな本を作っている市町村もある。
 これらは意見の分かれるところだ。わかりやすさを重視すれば、内容を落とさざるを得ない。しかし、長く読み伝えられるものにはならない。本格的な本にしようとすれば一般の読者にはむずかしい。理想としては資料満載の本を作ったあと、一般向けのやさしい読み物を作るのがよいと思う。しかし、限られた人員と予算でやれる仕事ではない。
 そこで[町史は町の文化財目録]と割切って作ることにした。料理にたとえれば、町中からえりすぐった自慢の食材をきれいに仕分けして並べたようなものだ。その組み合せと味付によっては、まねのできない独自の料理を生み出すことができる。あるいは町史にはダイヤの原石が入っているかもしれない。目の付けどころと磨き方次第で、意外な光を放つことだってある。
 自治体史が完成しても、すぐにこれといった効果がでるものではない。しかし、ムラおこし、地域再発見、観光案内、生涯学習、総合的な学習で、まっさきに必要なのは自治体史である。
 文化で腹はふくれないと言われるが、衣食足りて残るのは文化である。この知的財産に自治体がいかに投資するかで、その市町村の将来が決まってくるように思う。


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