民具整理と老人パワー

新国 勇
河北新報 計数管 2001年5月10日(木曜日)掲載
 十数年前から民具の整理をしている。民具とは、ザルやオケから千歯扱きまで生活や生産に使うあらゆる用具類をいう。当時、福島県只見町では集めた民具が山積みとなって古い寄宿舎に放置されていた。高度経済成長のころ、捨てられ燃やされていく民具を、町役場の人たちが集めておいてくれたものだ。
 何度か整理が試みられたが、中断していた。そんな折、民俗や歴史を調査して只見町史という本をつくる仕事が始まり、その一環として民具を整理することになった。
 まずは人集め。公民館長さんに音頭をとってもらい、四十代から八十代までの町民四十数人を集めてもらった。若い人は仕事があるので、主力はおじいちゃん、おばあちゃんたちの老人パワーだ。
 整理のマニュアルを作り、指導は民俗の先生方にお願いした。手順は、民具一点一点のホコリや汚れを落として、写真をとり、寸法を測って、民具カードに用途や内容を記録するものだ。整理が終わると、収納棚に収め、カードはバインダーに分類して綴じる。
 初めは不安だらけで、いつ終わるのか見当もつかなかった。五里霧中のなかで作業を進めていくうちに少しずつ慣れてきた。朝から夕方まで水もトイレもない場所で汗を流し、一年がかりで四千四百点の民具を整理してもらった。参加した町民がモデルになって「図説会津只見の民具」という本も刊行した。
 機運は盛り上がり、只見町の民具を国の重要有形民俗文化財にする事業が始まった。今では只見町の民具保存活用運動といわれるようになり、県内外から視察の人がやってくる。みんな、むかしをなつかしみながら楽しんでやっている。そして、自分たちの仕事が残っていくことに充実感を持っているようだ。
 住民参加の成功例といえるが、うまくいったのには理由がある。それは、する人、させる人、導く人の歯車がぴったり一致したからだ。どれ一つ止まってもうまくいかない。はっきりと目標をもって信頼してやれば、きっと成功する。民具整理からそんなことを教わった。


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